
冬晴れの一日、近鉄奈良駅から歩いて、鹿と大仏に会いに行ってきました。
奈良公園の鹿に出迎えられ、東大寺の大仏を見上げ、門前ではつきたての餅をほおばる。歩いて、食べて、また歩く。
観光名所と食を一本の線でつないだ、奈良まる一日の記録です。
近鉄奈良駅から東へ歩くと、登大路の園地あたりでもう鹿が待っていました。
「名勝奈良公園」と刻まれた石碑のまわりにも芝生にも、当たり前のように鹿、鹿、鹿。観光客の間をすり抜けて、のんびり草を食んでいます。
近づいてカメラを向けると、つぶらな瞳でこちらをじっと見上げてきました。冬毛のもこもこした体に、冷たい空気がよく似合います。
奈良公園をそのまま東へ抜けると、東大寺の参道です。
まず迎えてくれるのが、堂々とした南大門。二階建ての大きな木組みが冬の青空に黒々と映え、軒下では金剛力士像がにらみをきかせています。門の足元には、ここでもしれっと鹿。
中門をくぐって大仏殿へ。お堂に入ると、いよいよ盧舎那仏(大仏さま)とご対面です。
見上げるほど大きな黒い御身に、すっと立てた右手。台座の蓮や金色の光背まで、ひとつひとつが圧巻で、しばらく足が止まりました。
奈良といえばまずここ、という王道。やっぱり一度は自分の目で見上げておきたい場所です。
たっぷり歩いてお腹も空いたところで、お昼は「牛まぶし三山」へ。
木のおひつにぎっしり盛られた牛肉に、温泉卵、薬味、香の物。まずはそのまま、次に薬味を散らして、最後は出汁をかけて——と、ひつまぶしの要領で味を変えながら楽しめる一杯です。
甘辛く炊いた牛肉とごはんの相性は鉄板。冷えた体に、湯気と出汁の香りがじんわりしみました。
お腹が落ち着いたら、ひがしむき商店街へ。お目当ては、高速餅つきで知られる「中谷堂」です。
店先で受け取ったのは、つきたてのよもぎ餅。きな粉をまとったやわらかな餅を、あつあつのうちにその場でぱくり。
草の香りとあんこのやさしい甘さが口いっぱいに広がって、これぞ奈良の食べ歩き、という一個でした。
午後は、駅前の「猿田彦珈琲」でひと休み。
木のテーブルに届いた一杯は、八角形のロゴを押した紙カップ入り。淹れたての深炒りコーヒーは、表面にきらりと脂が浮いて、香りもふくよかです。
窓の外の緑を眺めながら、ことことと一口ずつ。歩き回った足がようやくほどけていきます。観光の合間のこういう余白も、その町の空気を味わう大事な時間だなと思います。
日が暮れて、夜は少し足をのばした一軒へ。金色の扉と、玄関先の馬のオブジェが目印の、洒落たお店です。
まずは前菜の盛り合わせ。生ハムやムース、小さなグラスに詰めた一口が、ガラスの二段プレートに彩りよく並びます。見た目から華やかで、気分が上がります。
メインは、皮目をこんがり焼き上げたチキン。なめらかなマッシュと青菜を添えて、しっとりジューシーに仕上がっていました。
締めには、ふわとろの卵をのせたごはんに、海老の旨みがきいた赤いソース。キャビアのひと粒がちょこんとのって、最後まで遊び心たっぷりでした。
朝の鹿、昼のひつまぶし、夜のコース。歩きづめの一日が、この一皿でゆっくりほどけていきました。
鹿と大仏の王道から、門前の食べ歩き、夜のごちそうまで。奈良をまる一日、欲ばりに歩いた冬の一日でした。
同じルートを一本につないでおくと、これから奈良を巡る人の道しるべにもなりそうです。